「あたかもクライエントになったかのように感じましょう」
傾聴(来談者中心療法)のテキストによく出て来るフレーズです。
「あたかも」ということは、
A.その人本人になれという意味ではない
B.勝手に自分なりに分析してわかったつもりになることでもない
という風に解釈できます。
相手になるのでもなく、自分になるわけでもない・・・。
そんな風に言われると正直困りますよね(汗)。
「じゃあ何になるの???」と思います。
また、その「あたかも」を実現するために、
「心の中を真っ白にして空間を作りましょう」とも言われたります。
それもまた、抽象的すぎてわかりにくく、混乱を加速させたりします。
(補足:私は、心の中が真っ白になったことは一度もありません)
これらはすべて目に見えない「感覚的な何か」の状態を実現するための
道筋を示すための比喩表現でですから、説明した人が悪いわけではありません。
でも、感覚を理屈で考え始めるとドツボにはまるわけであります。
せめてもう少しだけでも具体的に、出来ればイメージできる形で表現できないかと
私自身も試行錯誤しています。
そこで今回は、人によってはきっといまよりクリアになる表現を使って、
(そして、人によってはより混迷するかもしれない)
「あたかも相手になったかのように感じる」により近づけそうな説明をしてみたいと思います。
・・・
ポイントは2つだけです。
1.話を聴きながら想像し、場面を強力にイメージしながら聴く
2.いま自分が見ているそのイメージは、相手が見ている世界とはまったくはずだという風に、いつも自分を疑う自分を持っておく
最低限、この2つのポイントをさえることで、決めつけ、押し付け、
的外れなアドバイスくらいは防げて、「あたかも」に近づけるでしょう。
解説を加えます。
1.話を聴きながら想像し、場面を強力にイメージしながら聴く
「傾聴では聴き手の準拠枠ではなく、話し手の準拠枠で聴きましょう」といいます。
※準拠枠=心のフィルター、色眼鏡、内部的照合枠
話を聴きながら想像し、場面を強力にイメージしながら聴くというのは、
100%「聴き手の準拠枠」で聴いているということです。
聴きはじめからいきなり聴き手自身の準拠枠を排除しようとすると、
自分をおさえることばかりに意識を奪われてしまい、目の前の人がおろそかになってしまいがちです。
よく「話を聴いている最中に、自分の意見とかを言いたくなっちゃうんです」
という人がしますが、その状態はまさに、相手をわかろとすることよりも
自分をおさえることのほうに精一杯になってしまっているからです。
そうではなくて、仮に100%自分の準拠枠であっても、それを否定せず
そのままイメージして見続けてみましょう。
2.いま自分が見ているそのイメージは、相手が見ている世界とはまったくはずだという風に、いつも自分を疑う自分を持っておく
しかしそれで終わってしまったら、決めつけ、押し付け、聴き手の個人的興味に引っ張られた
聞き方になってしまいます。
そこで、第2段階。
100%個人的な想像でイメージを見ながら聴いている自分のことは「肯定」しつつ、別のところで、
「イメージはクリアに見えているけれども、それは100%私の想像であり、相手が見えている世界、感じていることは、きっと全く別の事のはずだ」
と、自分を疑う自分を同時に持っておくのです。
人間の脳は、イメージできることを現実と思いがちです。
事実、記憶というものは、現実にも目視した映像と、空想したイメージの区別がつきません。
毎日私たちが体験した出来事の記憶はいったんすべて脳の中で分解され、
海馬を通して再構成された「作り物」が記憶として残っているのです。
脳は現実でも空想でも見えたものは、事実としてとらえてしまいます。
現実と空想の区別がつかない以上「自分勝手なイメージを見ないでおこう」
とする努力は意味がありません。
それよりも、見えている(しまう)イメージはそのまま見つつ、
・自分が見えている世界と、相手が見えている世界は全く違うはず
・自分が理解できたと思っていても、きっと間違いや足りないことがあるはず
という風に、イメージが見えてしまう状態を変えようとするのではなく、
イメージに対する「とらえかた」の方を変え、別の行動に置き換えたほうが
脳の特徴から見れば現実的です。。
1.イメージは自由にする
2.そのイメージは相手の事実とは違うと自分をいつも疑っている
最低限、この2つの連取をすることで、いままでよりも「あたかも」に近づき、相手の気持ちに近づきながら、聴けるようになるでしょう。
欲を言えばほかにも付属したいことはいろいろありますが、
人間の脳は3つ以上いう混乱し始めますので、「あたかも」に困っている人がいたら、
まずこの2つからやってみてはいかがでしょうか。
<お知らせ>
「あたかも」のもっと手前、
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