「いま、ここ」へのラベルの貼り方が大事

以前、大きなお寺のお坊さんたちに向けに

傾聴研修をしていたことがあります。

あるとき、研修中に「質問があります」と手を挙げたのは、

私と同年代の経験豊富なお坊さんでした。

そのお寺では、説法とは別に

予約制の悩み相談会を開催していまして。

当時まだ、相談会は始まったばかり。

相談員をうけるお坊さんたちは、

普段のお寺での仕事と個別に相談を受けるのは、

勝手が違うと感じていたようです。

でも相談用の特別な研修は受けていない状況でした。

その方は、相談会の相談員をしていました。

お坊さん「先日、相談に来た方が、いきなり『死にたいんです』とおっしゃったのです。そのとき、どう対応したらいいか困ってしまいました・・・。」

とおっしゃったので、

「なるほど。では『死にたい』と言われたとき、実際にどのように対応されたのですか?」

と訊きました。

すると、

お坊さん「何で死にたいのでしょうか?と訊きました」。

非常に常識的で、よくある対応です。

私「その問いかけに、どんな返事が返ってきましたか?」

お坊さん「それが・・・『なんとなく死にたい』と言われてしまいまして・・・。死にたいというからには何か理由があると持ったのですが、いくら聞いても明確な理由がなくて、困ってしまいました。」

というのです。

なぜ死にたいのか?死にたい原因を特定し、

その問題を解決しようとしたけれど、

うまくできなかったというわけです。

それでどうしたものかと、質問をしてくださったのでした。

「何かしたいのには、必ずワケがある」

常識的に考えると確かにそうです。

私も必ず「ワケ」はあるのと思います。

でも、そのワケは明確に説明できるものではなくて

「なんとなく」そう感じているということもよくあります。

「死にたい」という話を聴くとつい、

その「死にたい」について何かすぐ

アプローチをしなければいけないような

気分になりがちです。

つまり、

その人に「死にたい人」とラベルを貼り、

そこに意識を奪われます。

私は、訊きました

「その方は、おっしゃる通り死にたい人でもあるのですが、他に『どんな人』ともいえるでしょうか?」

違うラベルは貼れないか?

問いかけてみました。

すると

「悩んでいる人」「助けて欲しい人」

というように

やはり、苦しみや問題点に関する

ラベルしか貼れません。

私は言いました。

「確かに助けて欲しそうな気もしますが、まだ明確にご本人はそこまでおっしゃっていませんよね。」

と、伝えたあと、

「こんな人ともいえないでしょうか」と、

私から見える別のラベルを伝えました。

そのラベルとは・・・、

「なんとなく死にたい思いを抱えつつ、わざわざ予約をして、相談会に来た人」。

早合点の推測をして

「来たのだから、助けて欲しい人だ」

と決めつけてしまうには時期尚早です。

でも、

「予約をして相談に来ている」、

そこまでは事実として確定できます。

「死にたい」という言葉に引きずられ視野が狭くなり、

いま目の前にいる人を全体として

見る目が閉じてしまっているのです。

「現場を見ていないので何とも言えませんが・・・」

と前置きしたうえで、

例えば私なら、相談に来た方に

このように関わりたいかもと、

次のように伝えました。

「なんとなく死にたいという想いを抱えながら、この相談会に来ようと思われたのは、どのような思いからでしょうか?」

と、死にたい理由よりも、

相談に申しここんだ想いを聴きたいと思いました。

そして、少しでも相談に来た想いをうかがえたなら

「・・・そうでしたか。死にたいという想いを抱えながら、そのような期待をもって今日来てくださって、ありがとうございます。」

と、いま目の前に来てくれた想いを支持し、

感謝も伝えるかもしれません。

・・・

人にはいろいろな側面があります。

「死にたい人」一つのラベルだけ貼って

終わりにしてしまうと

もうその人のことは、

「死にたい人」にしか見えなくなってしまいます。

でも、もっと広い視点でみて、

いろいろなラベルが貼れると分かると視野が広がり、

何に関われるか?何に関わりたいか?

が変わってきます。

人間性心理学では「いま、ここが大事」とよくいいます。

確かにそうです。

でも、「いま、ここ」を大事にするためには、

「いま、ここにどんなラベルを貼って見るか?」

がもっと大事なのです。

そして、どのような視点をもって

その場にいられるかは、相手の問題ではなく、

自分自身が日ごろから、

「どのように人と関わりたいか?」

自分の想いがそのまま映し出されます。

問題解決思考が強い人は、

問題点にばかり意識がいきます。

今ここに関わりたい人は、

今ここに意識が向きます。

人と関わるには「やり方(言い方)」も大事ですが、

その方法が選択ができるためのは、

相談を受ける人の「あり方」が

強く影響します。

理由や原因を追究できない時は、

いまここのにいるその人の在り方を

支えることから始めてみましょう。

すると、道が開けることがあります。

【この言葉を自分に言ってみよう!】

「いま、ここで起きていることは何か?を広い視野で見てみよう」

その方は、

「これでこれから、どんな相談者が来ても、少しは関わることができそうだ」

と安心して帰っていかれました。

私もその時、お坊さんの「いま、ここ」に

少しは関われたでしょうか。

<お知らせ>

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