むかし、ある人から
「認知行動療法は効きますか?」
と、まるで風邪薬の効用を
尋ねるかのように質問されて驚きました。
療法は薬ではないので、
効くとか効かないの問題ではなく、
なにか改善したい難しい問題があった時に、
難しいながらも、そこにできるだけ
効率的に、安全にアプローチするための
ただの方法でしかありません。
薬ならどの薬剤師さんが調合しても、
基本同じものができるでしょう(たぶん)。
でも特に心理療法の場合は、
薬とまた違って「誰がやるか」が大きく影響します。
ですから
「療法が効くか効かないか」
と聞かれても、
「誰がやるか」
がわからなければ、
また答えようもありません。
私は正直に「わかりません」と答えました。
質問した方は、「効きます!」と言って欲しかったのでしょうが、
期待していた答えをもらえずに、
少しがっかりしていました。
残念なことですが人生には
答えを欲しくても期待通りにはもらえない、
そんなこともありますね。
・・・
いま、薬を引き合いにして説明をしていますが、
ついでにもう一つ考えてみたいことがあります。
それは、
「風邪薬は、風邪を治しているのか?」
という問題です。
むかし、親しくさせていただいてる
お医者さんからもよく聞いた話なのですが、
結論を言うと
「風邪薬は、風邪を治していないし、そもそも治せない」
というのです。
風邪薬を飲めば、熱は下がるし、鼻水は止まります。
でも、これらはすべて、
「風邪をひいてしまった」という「結果」から
出てくる症状(現象)に対して、
緩和しているだけで、
風邪そのものの治療にはなっていません。
風邪を引いたまま、表に出している症状だけ、
小さく見せても確かにそれは「治った」とは言いませんね。
つまり、「対処療法」です。
では、
「風邪が治る(根治する)」
というのは、どういう状態かというと
「風邪をひいていない状態になる」
ことですが、
風邪薬を飲んで、風邪を治そうとしている人がいたとしたら、
きっと対処療法と根治の区別が
出来ていないのでしょう。
「薬を飲んで、鼻水は止まっても、風邪は治らない」。
これが答えです。
風邪薬も飲んでいるうちに、
自分(の免疫)が風邪を治しているのです。
そのお医者さんいわく、
治しているのは「薬」ではなく「自分」
なのだそうです。
・・・
この対処療法と根治という考え方は、
人から悩み相談を受けるときにも
通じるものがあります。
例えば、
「35歳を過ぎた息子が引きこもっているのですが・・・」
と相談を受けたとしましょう。
その問題を解決できた姿とは、
いったいどのような状態でしょうか?
こう考える人がいるかもしれません
「息子さんが、家を出て仕事を始めれば、問題は解決したといえるだろう。」
と。
そこで親御さんと一緒になって、
「どうやって家の外に出すか」
を必死に考えたりするかもしれません。
でも残念ながら、仮にその試みがうまくいっても
本当に「問題が解決した」とは言えないかもしれません。
なぜなら、
息子が引きこもりたくなった「原因」のほうが、
解決されていなければ、たぶんまた
同じ状態に逆戻りになってしまうでしょう。
引きこもるという行為は、
「原因」から生まれた「結果」です。
結果の方を見栄えよく変えたつもりでも、
原因がそのまま残っていたら・・・。
さきほどの、風邪薬の話と同じで、
引きこもりたくなる根本は治っていなければ
同じ苦労をまたすることになります。
・・・
木をイメージすると分かりやすいでしょうか。
「原因」が土の中に埋もれて見えない、木の根っこで
「結果」が表から見える枝葉や果実です。
枝葉や果実は表に出ているので
すぐ見つかるし、手も届きやすいです。
また、果実はおいしそうなので、
それをとれば「良いことが起きた」気になります。
一方、根っこは外からは見えないし、
土の中にあるので、簡単には掘り出しません。
それに、掘り出そうとすると汚れます。
だからみんな根っこをどうするか考えるよりも、
手っ取り早く成果が得られそうに思える
枝葉と果実のことだけ考えるほうが楽というわけです。
心理学の実験でも、
「遠い将来にたくさんのお金をあげるのと、今すぐ、その半分のお金をあげるのどちらがいい?」
と尋ねると、より多くの人が後者、
今すぐ手に入る半分のお金の方を選んだのだそうです。
これは、人間は仮に本当に得ではなくても、
今すぐ簡単に手に入りそうな小さな得の方を
より選びやすいことを表しています。
・・・
話を戻します。
しかし残念ながら、いくら枝葉や果実をとっても
根っこがしっかり残っていれば、
また枝葉と果実は出てきます。
モグラたたきになってしまいます。
勘違いしていただきなくないので補足すると、
モグラたたきがいけないのではありません。
モグラたたきも極めれば、
それはそれで素晴らしいでしょう。
枝葉を切るのが上手な、剪定職人さんは立派です。
ここで言いたいのは、
剪定職人さんがいいか悪いかではなくて、
「自分は剪定をやろうとしているのか?」
それとも
「木の根っこ治そうとしているんか?」
あるいは、
「どちらもできるのだけれども、いまはどちらのスイッチを入れてやろうとしているのか?」
自分の立ち位置がちゃんと
自分の中で定まっていることが大切だといことです。
私自身は、表出している結果へのアプローチは
緊急的な止血と同じで、
それ(引きこもりの息子が家の外に出始めた)をみて、
安心したり喜ぶというはありません。
(延命できてよかったととりあえずホッとはしますが)。
むしろ、そこからが始まりだと思うのですが、
皆さんはいかがでしょうか?
【この言葉を自分に言ってみよう!】
「結果からでてきた現象を刈り取っても、問題は解決はしていない。」
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