傾聴のスキルにある「くり返し」はよく「オウム返し」といわれたりします。
「とにかく話を聴きながら、相手の言ったことをくり返ししましょう」と習った人も多いでしょう。
でも、「なんのためにくり返すのか?」一つ一つ理解してやらないと、表面的な真似だけしても本当の役には立ちません。
そこで今回は、とても奥深いくり返しの中の、特に重要な意味について解説します。
くり返しの意味
くり返は、やることは単純に見えても、効果・意味はとてもたくさんあり奥深いものです。
たとえば、ぱっと思いつくだけで以下の6つがあります。
1.ちゃんと話を聴いていること、内容を理解していることを示す
2.話し手を映し出す鏡になることで聴き手の中にある無条件で積極的な関心を伝える
3.鏡となりになりクリアに映しだすことで、話したことがしっくりくるか吟味してもらう
4.くり返しをすることで、気持ちについて尋ねる、ゆるく質問の意味がある
5.くり返しをすることで、聴き手の心に話し手が感じていることが聴き手にも残りやすくなる
6.うなずき、あいづちとあわせてくり返しをいれながら、聴き手自身がじっくりと味わい、次のかかわり方を決める間をつくる
傾聴の基本中の基本スキルのうち、「うなずき、あいづち」が家づくりで例えるなら基礎となる土台を作る工事。
くり返しは、その土台とちゃんと接合して、柱を立てる工事です。
くり返しのスキルうんぬん以前の問題として、共感をベースとしたうなずき、あいづちができなければ、当然、くり返しも安っぽくなってしまいます。
また、「くり返しをしよう」とする人によくある間違いの一つは、相手に何かを「気づかせよう」として、わざと聴き手が強調したい部分を強調しすぎてくり返すことです。
そういう、私意の入った、くり返しは気づきではなく「誘導」です。
もう一つよくあるのは「正しくくり返しをして、正解を言い当てよう」とするくり返しです。
くり返しは、クイズではありません。
確かに相手が使った感情のワードは、そのまま丁寧に繰り返そうとしますが、大事なのは正確にくり返せたことで聴き手を満足させることではありません。
話して自身が自分で見つめ、必要なときに気づける環境を提供することだけです。
聴き手が上手にくり返すかどうかには、たいして価値はありません。
そんなことよりも、強調したいのは前述の3番の「吟味してもらう」です。
くり返しは「感情の反射」とも訳されます。
でも、のちにロジャーズも言うように「鏡」「感情の反射」という言葉が独り歩きして、本意が伝わっていません。
言葉が発せられた瞬間に、早く正確に、まるで卓球でボールを打ち返すように、瞬発的にくり返すのがいいという誤解が生まれました。
そして、そのような「正しいくり返し」を目指している人は相変わらず多いようです。
これではいつまでたっても、よい傾聴はできません。
本来くり返しで一番大事な目的は「吟味してもらうこと」です。
たとえば、相手の言葉を使って、「あなたは・・・●●・・・なんですね・・・・。」くり返しをしたとしましょう。
すると、不思議なことに二種類の反応が返ってくる可能性があります。
一つは、
「そうなんです!」と話し手自身、無意識に発した言葉がくり返されることで、またすっきりと心に入り、「本当にそうだ」という確信(確認)につながることがあります。
もう一つある反応は、
「う・・・ん。えっと・・・、そう・・・なんですが・・・、いや・・・ちょっと・・・いま自分で言ったのになんですけど・・・●●というより、▲▲のほうが・・・ピッタリな気がします・・・。」
という風に、無意識発せられた言葉が、くり返しにより顕在化され、自分が発した言葉を吟味しなおすという作業が発生します。
それにより「それは違うとわかる」気づきが生まれ、自己理解が深まったりするのです。
吟味してもらうことが一番大切な事なので、(初心者にはお勧めしませんが)あえて話し手が使ったのとは「違う言葉に置き換えて」、返し見てるということでも、吟味はしてもらえます(=伝え返し)。
「あえて」ずれているかもしれない違う言葉に置き換えて返すことにより、ずれていることに気づいてもらえたりするのです。
あるいは、ずれているはずなのにすっきりとした顔で「そうです!」とこちらの言葉が張ってしまう人もいます。
そのときは、クライエントには
・カウンセラーの応答が、クライエント自身が言語化できなかった心情を、クライエントよりも明確にとらえている
もしくは、
・人から言われるとすぐその気になって、他人の意見を受け入れてしまう癖がある
どちらかだとわかります。
相手が使った言葉のままくり返すときも、言い換えをして返す時も、どちらも目的は話し手に「吟味してもらう」ことであり、話し手のすっきりした顔も見て、喜んでいるようではいけません。
話し手が喜んだ顔を見て、聴き手も喜んでいるようではいいカウンセリングはできません。
「そうです!」とすっきり喜んでもらうよりもむしろ、「う・・・ん」と引っかかってもらって、自分に向き合ってもらうことのほうが、むしろその人らしい答えを見つけていくうえで、より重要だったりします。
「くり返しは、吟味してもらうために使う」。
よかったらやってみてください。
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